ふしみのブログ

英語と旅行のノート

would のこころ

英語を使って仕事をするようになって1年半が経った。よく「学校で習う英文法なんて役に立たない」という本を読んだりするけど、結局の所さすがに1年半も英語だけで暮らしていると、特殊な倒置表現など以外のほぼすべての英文法は実戦で出会うことになるし、それらを使わないとうまく表現できないシチュエーションにも遭遇する。受験英語をバカにする人も多いが、必要不可欠な文法項目を過不足なく網羅できているという意味では日本のカリキュラムはよくできているのだ。

 

しかし、受験英語であまり登場しなかったのに、実生活では大活躍する文法というのはいくつかある。その中の最重要と言っていいのが、助動詞 "would" の用法である。 would は実は助動詞の中でかなり日本語らしい、柔らかい響きを生んでくれる単語なので、覚えておくと日本語で思い浮かんだ伝えたいことをよりダイレクトに翻訳できるようになるし、仕事でも「こいつはニュアンスをちゃんと伝えられるやつだ」と信頼を置いてもらいやすくなる。

 

では、実際の would の使われ方にはどういうものがあるのだろうか。譲歩、謙遜、丁寧な勧誘、などという用法の分類が並んでいるけど、とりあえず would の「こころ」はこれである。

would = 仮定法「もし〜だったら」の省略、特に「もしあなたの立場だったら (if I were you, )」の省略

説明の前に1つ例を挙げよう。日本で英語を話すときには、「教える」「教わる」というシチュエーションは避けて通れない。東京観光のプランにアドバイスをしたり、仕事のメンタリングをしてもらったり、そういうときに「こうすべきだと思う」と伝えたいシチュエーションは多い。

例えば東京に詳しいあなたが、アジアに初めて来る友達にアドバイスする、というような知識に差があるシチュエーションだと、つい直訳して "I think you should -" と言ってしまいがちだが、実はこの表現はかなり押し付けがましく感じられてしまう。

I think you should skip Tokyo tower. You should visit new museums instead.

あなたは東京タワーに行ったことがあるので、「東京タワーの施設は古くてガッカリするかもしれないし、展望台も大して高くないから、近くの美術館の方がオススメだよ。」と言いたいのかもしれないけど、「You should」という表現は、「その友人はタワー建築に興味があるかもしれない」などの可能性を考えていないことを表してしまい、大げさに言えば「どうせ目立つ建物だから東京タワーを選んだんだろうけど」というニュアンスになってしまいかねない。特に北米圏では、こういった相手の価値観や判断に立ち入った表現というのは明確に「失礼」だと学校で教わるらしい。

 

こういうとき、英語ではよく「私」を主語にした表現をする。

I would skip visiting Tokyo tower. (if I were you / if I were in your position)

(私なら) 東京タワーはやめておくかな。

"I would" と言ったときには、だいたいこのカッコ内が省略されていると思ったほうがいい。あなたの上司が "I would not do in that way" と言っていたら、「好みって人それぞれなんだなあ」と考えるべきではない。「俺ならそうはしない」すなわち平たく言えば「そのやり方は間違っている」と言っているのである。 このことを知らないと大変な目に遭うことがある...。こわいこわい。

 

would はおすすめする時にも使える。recommend, suggest などの動詞の場合だと (あなたが私なら) の省略と考えるのは不自然だけど、この場合は (もしも私があなたにお勧めできる立場であれば) の省略、というニュアンスで考えたほうがいいかもしれない。

I would recommend museums nearby instead.

(私があなたにおすすめするとしたら) 近くの美術館をおすすめします。

 上司から意見を聞かれた時などにもシチュエーションにもよく使う。

I would choose the second idea.

(私などはアイデアを選ぶ立場ではないのは承知の上ですが、もし私が選ぶ立場にあるとしたら) 2番目のアイデアを選びます。

文法書にこれらの would は「控えめな意志」「丁寧な勧誘」などと説明されているが、これらはすべて「もし〜なら、〜した」という形で説明できる。すなわち助動詞 would の「こころ」は仮定法なのだ。*1 *2

would は丁寧なニュアンスだけではなく、嫌味や皮肉などネガティブな表現にも使われます。日本語の謙譲語と同じですね。

A human would not curse old lady like him.

人間ならば彼のように高齢の女性を罵ったりしないでしょう (=アイツはマジ人間じゃねー)

上司にありえない失礼な指摘をした後輩を愚痴るときなどにも。

Would you say that? I wouldn't.

あなたがその後輩の立場ならそれを言いますか? 私なら言いません。(普通それ言う? 黙っとくよね)

それでは、みなさんも would を使って仮定法ハッピーライフを!

 

 

*1: Would といえば "I would like to", "would you like" が先に出てくる人も多いかもしれないが、実はこれらの用法は、メインの用法から派生した慣用表現として掲載されている

*2: could もそうであるが、体感ではwouldのほうがはるかによく使われると思う